酸化皮膜のある電極を低圧接着したい。相反する課題をクリアしたフィルム素材

酸化皮膜のある電極を低圧接着したい 相反する課題をクリアしたフィルム素材

開発のきっかけ

スマートフォンにはさまざまな機能のデジタル回路が数多く組み込まれているため、ノイズが発生しやすく、搭載されるセンサ等の品質低下が問題となっている。このため、ノイズを低減させるために、さまざまな手法や材料が適用されている。

そのような中、当社とお取引のある電子デバイスメーカーからの新規ノイズ低減手法について相談が舞い込んだ。本デバイスメーカーは、フィルム状の導電性材料を使用して、グランドを強化することで、ノイズ低減を図ろうとしていた。それを簡便な工程で実現するために「酸化皮膜のある金属電極同士を接続出来て」、かつ「接続前後でフィルム寸法が変化しない」グランド強化用フィルム材料の開発を当社に依頼された。非常に困難なお客さまの要求であったが、お客さまの期待に応えたい思いで担当者は開発に着手した。

技術の壁

担当者が、お客さまの要求の実現が困難だと感じた理由は二つある。
一般的に、導電フィルムやペーストで電極接続する場合、酸化皮膜を取り除くなどして、酸化皮膜が無い状態で接続を行う。酸化皮膜のある電極を接続するためには、物理的に酸化皮膜を突き破るほどの高圧で接続することが考えられる。しかし、この高圧接続を行なうと、実装前後で導電フィルムの形状が変化してしまい、お客さまの要求である「接続前後でフィルム寸法が変化しないこと」に応える事が出来ない。

電気接続が取りにくい酸化膜のある電極を、フィルム寸法が変わらないほどの低圧で接続する。この相反する状況を打開するアイデアが必要であった。

当社ならではの技術

当社は、世界に先駆けて開発した回路接続用材料を展開してきた。例えば、ディスプレイ向け回路接続材料の「異方導電フィルム」がそれに当たる。異方導電フィルムは、導電粒子を分散した接着剤によって導電性と絶縁性を両立しながら多数の微細電極を一括接続することが可能だ。それらを実現するためには、金属電極、ガラス、ポリイミドなどのプラスチック等異なる材料への高い接着力および接続信頼性が要求される。当社ではこれらの要求に対し、熱硬化性樹脂の物性コントロールや導電粒子の金属膜、サイズ、形状、硬さの最適化技術によりこれらを解決してきた。

開発担当者は、これら技術を応用可能であると考え開発に着手した。特に、顧客要求の酸化皮膜のある電極同士において、高い接続信頼性を確保することに苦労したが、形状や材質の異なる導電粒子を併用することにより、高い接続信頼性を実現し、さらにフィルム寸法を変えることのない低圧接着の実現に成功した。

今後の展開

新たに設定した等方導電性フィルムは、開発依頼を頂いたお客さまでの評価が直ぐに開始された。評価結果は良好。グランド強化に寄与することが出来たのである。本材料が評価されたことは、酸化皮膜の除去が不要であること、寸法変化が少ない低圧で接続が可能と、お客さまのご要望に応えられたことだけではない。接続温度を120℃と、はんだ接続と比べて劇的に接続温度を低下させることが出来たことで、お客さまの期待以上に工程負担を更に下げる事が出来たのである。

この等方導電性フィルムは、一般的に電気的な接続が確保しづらいアルミ材質の電極に対して、フラックス剤なしで接着ができる。薄膜の保護膜であれば、有機膜が積層されている電極にも適用できる可能性がある。また、低圧実装が可能であるため、寸法を変えず、さらに局面部分にも適用ができるため、デザイン性を重視するような顧客の期待に応えてくことができると開発担当者は考えている。

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